2012年2月13日

マインドへの反逆


もう10年以上も前のことだったと思う。日本から両親が遊びに来た際に、夫と4人でカナダに旅行し、ロッキー山脈の最高峰マウント・ロブソンの近くの山小屋に泊まった。

オーナーは30代前半くらいのスイス人の夫婦で、山小屋と敷地内でレストランを運営し、森の案内をしていた。その夫婦と会話をしていて知ったことは、彼らは2つの場所を半年ごとに往復して暮らしているということだった。

「夏は涼しいこの場所で楽しく稼いで、冬は暖かいメキシコでのんびりと遊びながら過ごしているんですよ。もう何年もそういう生活をしている。いつも快適な所にいたいんでね。」ご主人がそう言うと、その後ろで奥さんがニッコリしていた。

スイスから移住してカナダとメキシコを往復して暮らしている。季節が終わるとビジネスを閉め、別の場所に移動して別の生活を楽しんでいる。自分の都合で自由に動いている。そんな生き方ってあり~?? バチが当たるほどの贅沢。そんなことができるなんて、信じられない!

それが、そのときの私の反応だった。本当に、私の現実からはそんなことは考えも及ばないことだった。

あれから月日は流れ、いつからか、私の内側でマグマのようにフツフツと煮えたぎるようなエネルギーが、爆発とは違った形で現れ始めた。それは、昨年の年末から顕著になり、私は今までとは逆の行動をとることを楽しむようになった。

「えー、おせちなしぃ?」
「そう、なし」

夫の驚きの声に、淡々と返した。全く気が向かなかったため、恒例の、新年を迎えるおせち料理を作ることも、お神酒をあげることも、初詣もせず(シアトル近郊にも日本の神社はあるのです)、その代わりに元旦に夫と散歩に出かけて海岸でエッセンスを作り、帰りにカフェに立ち寄って、どでかく分厚いチキンバーガーをほおばった。バーガーは嫌いだと決めていたためもう何年も食べていなかったが、よりにもよって、こんなコッテリした典型的なアメリカのバーガーを自分から選んで元旦に食べるとは。

へんてこな行動に出た自分に対して頭はビックリしていたが、心の中でニヤニヤしているもう一人の自分がいた。もっと驚いたのは、今までなら、こういうものはくどくて量が多過ぎて胃が受付けなかったが、なぜかとても美味しいと思えたのである。ひょっとして、このニヤニヤしている自分は、途方もなくエネルギッシュで大きい胃袋を持っていて、難なく消化してしまえるヤツではないか?

シアトルの冬はどんよりしてジメジメ雨が降る日が多く、暗くて寒い。それを嫌だと思ったことはないが、体が冷えるのはやはり辛い。1月には大雪が降り積もり、さらに寒い日が続いた。

そんなとき、かつでカナダで出会ったスイス人夫婦のことを思い出した。すると、寒さを逃れて暖かい南に飛んでいく鳥のイメージとともに、こんな言葉が浮かんだ。

You don’t have to be stuck”「身動きできないでいる必要はない。」つまり、動いていいんだよというメッセージ。

冬は活動期ではないため、動いていけないとは誰も言っていない。快適さを求めてもよく、快適さは得られるものである。毎回春が来るのをじっと待つ必要もない。自分から出て行くことも選択できる。

夫は年に3~4回、フロリダにいる母親に会いに行っているが、ちょうど1月にもまた行くことになっていた。

「ここにいる必要はない」と思った瞬間、あのニヤニヤしていた自分が待ってましたとばかりに反応したのか、矢継ぎ早に短い情報が頭の中に入ってきた。

「フロリダ、暖かい、太陽の光、海、義母と自分をもっと理解する、義母の故郷の島、夫にとって母方のルーツとの繋がり、夫のアイデンティティの再確立・強化、新たな出発前の土固め、エッセンス作り、太陽と海、海、海!」

止まっていたテープが突然動き出したかのように、イメージと言葉が頭の中に押し寄せる。

「今回、私もお母さんに会いに行くわ。もう3年近く会っていないし、季節的に快適だし、今がいいチャンス。ついでに、どこかに足を伸ばしてエッセンスも作りたいし」

夫は一瞬驚いた表情を見せ、沈黙した。私は、今までできるだけ義母と接することを避けてきており、夫はそのことを重々知っている。だからこそ、私は心の中では義母の故郷の島に行ってみたいと思っていたものの、夫がどう反応するか分からなかったため、そのことには触れなかった。

が、やっぱり通じていた。「せっかくだから、セントトーマス(母親の故郷)に行こうか」と夫が言ったのは翌日のことだった。

You don’t have to be stuck身動きできない状態にしているのは、ただ単に自分の思い込みから来る考えなのである。

今までと同じようにする必要はなく、そこにじっとしている必要もない。儀式的なことや伝統的なこと、習慣的なことやルーティーンの枠を脇に置いてみる。「でも、そうしたらXXはどうなるの?」「時間はあるの?」「お金は?」「仕事はどうする?」

マインドがおしゃべりし出したら、耳をふさぐ。元旦から顕著になった動きは、どうもそういうことらしい。

この旅も、私自身のマインドへの反逆なのである。古い枠を破り、快適さを求め、自由を楽しむためのマインドへの反逆。

そうして動いたとき、マインドには想像もできないほど、はるかに豊かな体験が両手を広げて待っていた。

米領ヴァージン諸島 - セントトーマス島コキビーチ
     

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