2009年4月15日

ブライアン・ワイス博士 - へその緒の記憶

オギャー!と産声を上げて生まれてくるのが普通で、ほとんどの人がそうであると思うが、私は違った。

「姉ちゃん(私の姉のこと)は、陣痛が始まって2~3時間でポンと飛び出してきた。初産やったけど、すごく軽いお産やったわ。けど、あんたはすごい難産。16時間もかかってほんとに大変やった。あんたは姉ちゃんより大きかったからなあ。おまけに、やっと出てきたと思ったら、首にへその緒がグルグルに巻きついていて、あんた首絞められて青くなってぐったりしとって、ほとんど死にかかっとった。生まれても全然泣かへんかったから、お医者さんがあんたを片手で抱えてポンと背中を叩いたら、やっと泣いた。あんた、死ぬ一歩手前やったんやで」

大人になってから、母からこの話を何度聞いたことだろう。

そういえば、結婚してアメリカに住むようになってから、私は帰郷するたびに、実家にある母のたんすの引き出しから、大切にしまってあった自分のへその緒と母子手帳を出して見ていた。3200kgで姉より550gも重かった私は、予定日より1日遅れで、生と死の狭間から生まれた。もちろん、本人はそんなことは覚えていないが。

昨年の秋に沖縄で自己成長のためのワークショップを受けた時に、天と地とのバランスを感じてみるワークがあったが、私は自分でもショックなほど「地」とのバランスがよくなかった。

その時にふと浮かんできたことのひとつが、自分の生まれ方だった。このことは、ずっとどこかで引っかかっていて、いつか知りたいと思っていた。

そうしたら、数年前、友達があるチャネラーを紹介してくれた。これぞチャンス!とばかりに、なぜそんな生まれ方をしたのか聞いてみた。答えは、過去生にあった数々の悲しく苦しい出来事がトラウマとなり、私は、生まれるときに地球に戻ってくることに対して、大きな恐怖と抵抗を感じていたということだった。

しかし、そんなことは何の根拠もないし、記憶にないことなのでわからない。母は、妊娠中に自転車を乗り回していたので、それが原因でへその緒が巻いたのだと言い、チャネラーが言ったことを話したら、キッと怖い顔をして怒った。「産んだのは私! そんな他人に何がわかるっていうの!」

そりゃあそうだろう。お腹に中にいるときからずっと大切にしてきて、16時間も苦しんでやっとの思いで産んだのに、それは生まれてくることに抵抗があったからなどと言われたら、腹が立たない訳がない。

それでも、へその緒の記憶は、自分自身の調和を取り戻す過程で通らねばならない道の一角に、私が完全なタイミングでやって来るまで静かに待っていたようだ。そのタイミングとは、顕在意識の自分は気づいていないが、深い部分の自分がGOサインを出したとき。

それは、2週間前にシアトルで開かれた、前世療法で世界的に有名なブライアン・ワイス博士のワークショップという形でやって来た。内容を検討することもなく、ただ直感的に行ってみたいと思って申し込んだのだが、結果的には、やはり大いなる力の導きでそうなったことを感じずにはいられなかった。

ワイス博士はこう言った。
「過去の結果が現在の自分であるならば、今自分が癒やされることで、未来の自分の道が変わる」

この言葉を聞いた瞬間、脳の片隅で超高速早送りの画面が展開した。あまりにも早くて何もはっきり見えなかったが、そこには、私という人間を中心とした網の目のような「繋がり」の地図があり、今何をするか、またはしなかったかで、その都度、繋がりが作り上げる形が事細かに変わる。

この日ワークショップに参加したか、しなかったかでも、この先の何かが変わるかもしれないと思った。

誘導瞑想を通じて子供時代に戻り、母親の子宮の中にいた頃、生まれた瞬間、そして過去生の記憶へと順に遡っていくワークは、実際、新しい視点を与えてくれた。

座り心地の悪い会議用椅子に隣の人と肘をつき合わせて座らされ、こんな状態で深い瞑想に入れるのかと疑っていたが、実際、会場に集まった600人もの人が一斉に瞑想状態に入ると、場内はたちまちものすごいエネルギーに包まれた。意識も思考も全く普通の状態なのに、別の次元のドアが開くのである。

ワイス博士はステージからマイクを通して誘導した。「さあ目を閉じて、深呼吸をします。一呼吸ごとにリラックスして、深く入っていきます・・・あなたの頭上に美しい光をイメージしてください。光の色は、あなたが選びます」

私は、ローズクオーツのような優しいピンク色を想像した。間もなく、頭のてっぺんが痛いほどツンツンしてきた。すると、いきなり頭上のピンク色がもぎ取られ、勝手に濃い紫色にすり替わった。「あららら・・・」

それは私の意思とはまったく異なるもので、その紫の光のかたまりは独自の意思を持っているかのように、頭上で渦を巻いて待機していた。そして、ワイス博士が「光が、頭のてっぺんから体の中へと流れ込んできます」といった瞬間、待ってましたとばかりに、その光はグワ~ンと勢いよく入ってきて、たちまち頭全体から首まで広がった。

自分が制御しているのではなく、何か強い力が勝手に働いている感触は、少し不気味だった。気づいたら、そんなことを考えていた。
「あれっ、こんなこと考えていて、深く入っていけるのかな・・・」

ワイス博士が逆に数字を数え始め、誘導が進む。「3・・2・・1。さあ、子供時代の楽しい思い出を思い出しましょう」

「数えるのが早くて、これじゃあついていけないじゃない」私の頭の中は、相変わらずごちゃごちゃと思考がうるさい。それでも、閉じた目の前に突然情景が広がった。

白いかっぽう着を来た母と、黒い厚手の綿シャツを着た父が私の前に立っていた。父も母も30代で、初々しい夫婦といった感じだ。私は3才くらいだろうか。スカートの下からオムツがはみ出ている(そういえば、私はオムツが取れるのは遅かった)。私たちは、当時住んでいた社宅の玄関の前に立っていた。よく晴れた日で、母は私にニッコリ微笑んでいた。父の綿シャツは、父が山登りが好きだったことを物語っている。

「貧しかったけれど、温かい家庭。私は大切にされ、愛されていた」
それが、このシーンからのメッセージだった。

感情が入らず、とても客観的に見ているのに、ワイス博士の誘導でこのシーンを離れる前に、ツーっと一筋涙が頬をつたった。「あれっ?なんで涙が出るんだろう」

このような涙は、深い部分の自分が反応しているときに流れる涙だということを、昨年沖縄で受けたワークショップのときに教えてもらったことを思い出した。

次は、母親の子宮の中にいるときの記憶。暗い感じで動きがなく、特に何も感じなかった。なんだろうと思っているうちに、ワイス博士は生まれた瞬間へと誘導していた。私は、自分が窒息状態で生まれたと聞いていたので、首を絞められる苦しさが蘇るのかと思って、怖くなった。

「はい、生まれました!さあ、どんな感じですか?」

ちょっと早すぎてついていけない。躊躇している私を置いて、誘導はどんどん進んで行く。生まれたって言われても、何のインパクトもないし・・・。と思っていたら、急に首の周りがチリチリし始めて、そこに半透明の柔らかいチューブのようなものが三重くらい巻きついているのをはっきりと感じた。どうやら、私はまだ子宮の中にいたようだ。

それは、私が想像していたようなものとは全く違った。半透明のチューブは温かく、私の首を柔らかく包んでいた。そこから白い光がキラキラしていて、細かい電流が流れるように首をチリチリと刺激していた。心地よかった。

確かに産道を通り抜ける時には、首を締め付けられただろうが、子宮の中にいるときは、私はへその緒のマフラーに優しく巻かれて穏やかに眠っていた。それは、私の首を絞めた凶器ではなく、愛そのものだった。

私はたくさんの愛に包まれていた。母と私をつなぐ愛。地球へと生まれ出る私を、周りで見守る複数の守護霊や指導霊の存在も、はっきりと感じた。

両親や見えない存在達の愛に包まれ、護られている。その感触を、私は今この場所で椅子に座って味わっている。地球に生まれて来ることに恐怖を感じていたかどうかということよりも、私はどんな時でもこの愛に包まれている、私は一人ではないという深い安心感を実感することの方がはるかに大切だった。

私が心を閉ざしていても、絶対的な愛は変わらず注がれ続けていた。生まれる前からも、生まれた後も、そして現在も、私を支え見守り続け、注がれ続けている愛。そのことに気づいたとき、深い感謝の気持ちが沸き起こった。

と同時に、へその緒に優しく巻かれて眠っていた胎児の私という小さな命の尊さと、高次の愛に支えられながら、この世に生まれてくることの意味の大きさまでもが、首の周りの感触と共に伝わってきた。

「過去の結果が現在の自分であるならば、今自分が癒やされることで、未来の自分の道が変わる」

へその緒は愛のマフラーだった。そのことに気づいたとき、それは首の周りからそっと消えた。私の中で癒しが起こり、またひとつ何かが開放された。

私は角を曲がり、ここからまた新しい道を歩き始める。

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