2009年4月28日

平和なトイレ


真実は実に単純なことである。

この簡易トイレが、ある深い真実を教えてくれた。

写真をご覧になるとおわかりのように、このトイレは歩道の脇に設置してある。トイレの後ろ側(写真の右側)は坂になっており、降りた所に200ほどの区画があるコミュニティガーデンがあり、その一区画を借りて、私は毎年野菜を作っている。

この区画と同じくらいの数の人たちが、思い思いに自分の区画で野菜やハーブ、花を作っており、各自が自分の区画を管理しているが、全体としてコミュニティになっているため、役割や共同の作業があったり、共用するものもたくさんある。

4月半ばになって、また今年も畑のシーズンが始まった。シーズンは4月から10月半ばまで。シーズン中に使う簡易トイレを、毎年みんなでお金を出し合ってリースで借りる。

私はここで畑を始めて今年で10年になるが、簡易トイレを置くようになったのは、数年ほど前からのことである。長時間作業をしていると、トイレは絶対必要になるため、大助かりである。

この簡易トイレ、実は3年前からやっと平和になったが、それまでは激しい戦いがあった。いや、順番を争ったという話ではない。

コミュニティガーデンのメンバーが使用するために、お金を出し合って調達したものだから、当然メンバーだけが使える。多分、リーダーはそう考えたのだろう。シーズンも半ばになったある日、数字を合わさないと開かないダイヤル式の鍵がトイレに付けられ、メンバーに暗証番号が告げられた。いちいち番号を合わさないと開けられないため面倒であるが、コミュニティガーデンのルールとなったので仕方ない。

それから数週間後、畑に行ってみると、トイレが逆さまになって崖の途中に引っかかっていた。「うわ~ひどい、誰がこんなことを!」

ドアは閉まったままだが、タンクの中身のことを考えると、中の様子は想像するだけで恐ろしい。こんな重いものを誰が突き落としたのだろう。

「高校生のいたずらじゃないか」と夫は言った。コミュニティガーデンの隣には高校がある。「そんなことするのは若者に決まっているさ」

業者に来てもらい、新しいトイレを置き直した。もちろん、今度も同じように鍵を付けた。すると、数日と経たないうちに、また突き落とされた。同じ人のいたずら?

結局犯人はわからないまま、その年トイレ事件は未解決に終わった。

翌年、リーダーは知恵を絞り、今度は地面に板を張って、鍵を付けたトイレをその上に置き、太さが2センチほどのリングチェーンで固定した。これなら、どんなに押しても突き落とすことはできないはず。これで絶対大丈夫。多分、リーダーはそう考えたのだろう。

茶色い大きなリングチェーンは囚人の足かせを思い起こさせ、見るからに重々しい。ダイヤル式の鍵にチェーン。ずいぶん仰々しいトイレになってしまった。これもすべて「守るため」。一体何を守るのか。

ところが、後日そこへ行って愕然とした。またもや、トイレは無残にひっくり返っていた。台になった板の上で、チェーンはブチンとリングの真ん中で見事に切断されていた。2センチもある分厚いチェーンが!

これを切るのに、どんな道具を使ったのだろうか。そんじょそこらの道具ではできないはず。これはもう、ただのいたずらではなかった。わざわざ道具を取りに行き、人気のない夜を見計らってここへ戻って来て、チェーンを切ってトイレを押し倒す。それに要した時間と労力を考えると、このチェーンを切った者の怒りは相当なものである。

切断されたチェーン。これは決定的なメッセージだった。

私は驚いたが、リーダーはさぞかしショックだったろう。絶対に負けはしないと抵抗すればするほど、閉じれば閉じるほど、相手はその何倍もの力で攻めてくるのである。

顔の見えない敵との戦い。この事件は、みんなで協力し合い分かち合い、のどかに畑を耕す私たちにとって、おぞましいものであった。

「用を足したくてトイレのドアに手をかけたら鍵がかかっていた・・・俺だって、カッとなって倒したくなるぜ」切断されたチェーンを見て言った夫の言葉に、私も頷けた。

トイレは畑の敷地内ではなく、歩道の脇に置いてあるため、ジョギングをしている人、犬の散歩をしている人、駐車する人など、通行人が結構利用しているのである。畑の作業をする人より、通行人の利用の方が多いくらいである。それがわかったのは、その翌年のこと。なぜわかったか。それは、トイレに鍵をかけなくなったため。

これでもうトイレは倒されることもなく、みんながハッピーで、すべてが丸く収まった。なぜ、最初からこれができなかったのか。

真実は実に単純なことである。これほど宇宙の法則を端的に物語っているものはない。

私たちの社会では、いつしか、トイレに外から鍵を付けるような考えが当たり前になってしまった。これは世界中のあらゆるレベルに浸透し、とても根が深い。閉じるエネルギーは固くて重い。閉じれば閉じるほど、抵抗すればするほど、反作用がその何倍もの力で跳ね返ってくる。

しかし、それでは平和は訪れない。この簡易トイレが象徴するように、これからは大小様々なレベルで、どんどん開いて分かち合う方向へと流れが向かっている。

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