2007年11月29日

身土不二を実践する人々

森と湖に囲まれた自然豊かな街、シアトル。この街の人々は環境に敏感で、概してリベラルである。

地元の農家の人達が集まって、週に一度街のあちこちで野菜や果物を売るファーマーズマーケットは、人々の間にすっかり定着した。師走も押し迫った今でこそとれる作物は減る一方であるが、夏はマーケットに訪れる人で大賑わいである。毎年売るものの種類が増えて、私の家の近くのマーケットでは、野菜、果物のほかにナッツ、シーフード、卵、肉類、ジュース、パン、ジャム、パスタ、きのこ、蜂蜜、ハーブのソープなども仲間入りして、オーガニックのものや手作りのものが楽しめる。

売る側と買う側がふれあい、情報交換をして信頼関係を築く。買う側は地元の小規模農業をサポートし、売る側は新鮮で安全な食品を提供でき、お互いにとって楽しくエキサイティングで、しかもプラスになる方法である。

昨今、大手食品製造企業の拡大、原油の高騰、中国の食品安全基準の問題、環境破壊と汚染、地球温暖化などの問題が絡み合い、問題はさらに複雑化し深刻化している。中国の食品問題においては芋づる式にその実態が明らかになってきている。つい先日の新聞にも、アメリカのあるスーパーで売っている中国産のしょうがを検査したところ、中国政府が禁止している農薬が使われていることがわかったという記事が載っていた。それも人体に危険なレベルだったという。恐ろしい・・・。

もうこれ以上、このまま進んではいけない。体にも環境にもよい生き方がしたい、そして、地元の農家をサポートしたい、そう思う人達が行動に移り始めた。ここシアトルでは、半径100マイル(約160キロ)の範囲で、手に入るものだけを食べることに決めて実践し始めた人が増えているという。

半径100マイルというと、北はバンクーバー、南はオレゴン、東は太平洋沿岸の一部、西はワシントン州の中央部までとなる。実際、この範囲でとれるものしか食さないとなると、かなりキツイ状態になる。バナナやトロピカルフルーツは当然アウト、特定の野菜やシーフード、砂糖、コーヒーなどの嗜好品もアウト。スーパーで買う食品の種類が限られてくる、というよりも、こうなると自家菜園で半自給自足の生活をすることになるのではないか。おやつも自分で作り、野菜がとれない冬に向けて保存食を蓄えておかなければならない。

しかし、待てよ。これはどこかで聞いたような生活。そう、昔の日本の生活だ。今でも、田舎ではそのような暮らしが続いている所もあるだろう。野菜を作り果物の木があって、近海の魚を食べて、漬物や味噌、醤油を作っていた。要するに身土不二。その土地でとれたものを食する。基本的にそういうことだ。昔は農薬も化学肥料もなかったから有機栽培で、食品には添加物も入っていなかった。まさにマクロビオティックの世界である。

私たちは突きつめればエネルギーであり、食品というエネルギーを取り入れて体を維持している。エネルギーは波動で、土地にはその土地の波動がある。自分が住んでいる土地でとれたものを食することは、その土地の波動と共鳴し、バランスをとることである。

シアトルは緯度が高く気候的には寒帯に入るため、冬にチリでとれたブドウやハワイのパイナップルを食べていると体が冷えて、寒くて寒くて仕方がない。そんなものはこの時期ここでは育たないので、食べないのが自然である。しかし、レストランのバイキング料理などはめちゃくちゃだ。先日、インドレストランのバイキングに行ったところ、スイカが並んでいた。スイカは汗をかく暑い夏に食べるもの。気温5度の11月には必要ないでしょう。

私の畑では、まだなんとか大根がとれる。もうすぐ土が凍るので大根も終わるが、気温5~6度の土地で体を温める根菜を食べることは、理にかなっている。おせち料理の野菜には、根菜の煮物が多い。冬は根菜で体の中から暖めるのが、自然と調和した過ごし方であろう。

地元でとれるものを食べていたら、自然のリズムからはずれることはない。しかし、一口に地元のものといっても、それがどのように作られたかによって結果は異なる。ある調査によると、地元ワシントン州西部で化学肥料や農薬を使った野菜と、カリフォルニアから輸送されてきたオーガニックの野菜とを比べたら、環境の立場からはカリフォルニア産のオーガニック野菜の方がよいという。化学肥料や農薬を作るために化石燃料を消費し、大量の二酸化炭素が発生するからである。結果的に健康と環境に一番よいのは、オーガニック自家菜園と、地元で作ったオーガニックのものを徒歩で買いに行くことであるという。そのため、ファーマーズマーケットに歩いて野菜を買いに行くのは理想的である。

半径100マイルを実践する人は、必然的に身土不二の生活になる。自然のエネルギー、土地のエネルギーと調和して季節の循環の中で生きる。このとき、体も心もバランスがとれたものとなってくるだろう。

そして、体と心のバランスがとれるに従って、地球に起こっていることに敏感になってくるであろう。大手食品製造企業の拡大、原油の高騰、中国の食品安全基準の問題、環境破壊と汚染、地球温暖化、こういった問題を解決する糸口は、化学薬品がなかった昔ながらの身土不二の実践にあるかもしれない。身土不二を取り入れてバランスを取り戻すことで、自然に還る大きな一歩を踏み出せる。

0 件のコメント: