2008年1月23日

寝かせることも大切

ここ1週間くらいの間に繰り返し出会うのが、「寝かせる」という考え。

寿司のネタは鮮度が一番で、市場から口に入るまでの時間が短ければ短いほどよいと思うのが普通だが、名人と言われる寿司職人によると、特に白身の魚やマグロは味を引き出すために寝かせることが不可欠だという。マグロに至っては、強いものは6日くらい置いておく必要があるそうだ。

昨日、あるサークルに参加させていただいて、そこで喜寿を迎えた方が十分に寝かせた粉を2時間こねて作ったという、うどんをご馳走になった。歯ごたえのあるシコシコ麺で、それはそれは美味だった。その方は今でも何でも自分で作るそうで、77歳とは思えないほど元気でシャキシャキしていらっしゃる粋なおばあちゃまである。

その方と饅頭など日本の伝統的な食べ物の話になったときに、いっぺんにやろうとしないで、少しずつ時間をかけて作ることが肝心だと教えられた。例えば、饅頭のあんを作るにしても、1日目は弱火で豆を煮て、2日目は砂糖を混ぜて豆から水が出て来るのを待ち、3日目にさらに煮つめるような作り方をすると、砂糖が豆の中までしみ込んで、水分の取れたおいしいあんができるという。

なるほど、私は昨年の年末におせちを何品か作ったが、あせって作ったので、どれも美味しくなかった。おせちを代表とする日本の伝統料理は、時間がかかるものばかりである。特に煮物などは、いったん火を止めて置いておく、言い換えれば、寝かせることで、形が崩れることもなく柔らかく味が中まで浸透し、噛めば噛むほど旨みが出て実に美味しいものができる。

「寝かせる」ことは、旨みを引き出すひとつの知恵であることを達人は知っている。それは食べ物の世界だけではない。

宇宙には静と動という相反する2つの要素があるが、これまでの社会は経済成長や社会の発展を掲げ、がむしゃらに「動」中心に進んできて、静をないがしろにしてきたところがあるように思う。今、この変化の激しい社会にあって、私たちは逆に「静」の部分にもっと注意すべきではないだろうか。寝かせることは静に通じる。いったん動きを止めて「寝かせる」ことで、自分の中の真の自分を見極め、それを自分なりの形で表現する、つまり、自分が持っている独特の「旨み」を引き出すことができるのではないだろうか。

新年を迎え、誰もが目標新たに燃え突っ走る傾向にあるが、力みすぎたりあせると逆効果になる。余裕がなければよいものはできない。そういう意味で「寝かせる」時間も必要であろう。

「いっぺんにやろうとすると大変だから、少しずつやればいいのよ」と人生の達人である、このおばあちゃまがおっしゃった。寿司の達人も人生の達人も「寝かせること」の大切さを知っている。静には知恵が詰まっているのだ。

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